薬剤師の健康・グルメ日記

薬剤師でサプリメントアドバイザーのまっちゃんがヘルシーフードや健康情報、お気に入りのグルメを紹介するブログです。

認知症と物忘れの違いは?~認知症の診断・治療・薬とその誤解(アルツハイマー型、レビー小体型など)

 

 

maccyan2.hatenablog.com

 

  今回は認知症治療の実際についてご紹介します。皆さん「最近私物忘れがひどいな」とか「自分の親が物忘れがひどいな」というとき「ひょっとしたら認知症じゃないか?」と怖く思ったことはないですか?僕はあります。認知症は完全になってしまうと未だ完治することがない病気です。実は僕の祖母もアルツハイマー型認知症でした。優しくて尊敬する人間が段々自分が尊敬していた人格を失っていくのを近くで見ているのは本当に残酷な経験です。特にそれが、肉親であればそのショックは計り知れません。そこで皆さんの参考になればと思い自分の知る限りの情報をまとめたいと思います。また、僕はグループホーム(認知症共同生活介護)と呼ばれる認知症の高齢者が共同生活する施設で薬の管理を3年ほどやっていたこともありますし、認知症専門医の先生と一緒に往診に行っていた経験もあるのでそんな経験も活かして書きたいと思います。

 

目次

 

「認知症」と「加齢による物忘れ」の違い

 「認知症」と「加齢による物忘れ」の違いは有名なものでは「体験の一部を忘れる」のか「体験全体(そのもの)を忘れる」のかという点です。では、皆さんも考えてみてください!「昨日何食べました?一昨日は?その前は?・・・・」どこまで思い出せました?昨日の記憶も思い出せないって人もいるかもしれませんが、心配ありません。それは認知症ではないことがほとんどです。「食べたこと」は覚えているでしょ?あるいは「昨日の晩御飯をコンビニ行って買ったことは覚えているんだけど、何買ったか覚えていない」とか「買ったこと」は覚えているでしょ?それは基本的には認知症ではありません。夕ご飯食べたのに「食べてない」という人は危険です。

 

認知症のタイプ

  次に、認知症にはさまざまなタイプがあるのを知っていますか?一番有名で患者数も多いのがアルツハイマー型認知症ですね。その他にレビー小体型認知症とか、脳血管性認知症とか前頭側頭型認知症とかがあります。ひとくくりに認知症といってもその原因や症状が全く違うんです。

 

アルツハイマー型認知症の原因と症状

 アルツハイマーの原因は脳の中に「βアミロイド」や「タウタンパク」といったような特殊なタンパク質が蓄積してきます。そうすると脳の神経細胞が段々死んでいくんです。その結果認知機能に障害が出てきます。数年かけて徐々に生活にも支障が出てくるようになり、最終的には日常生活の基本的なこともできなくなってしまいます。アルツハイマーの認知障害の特徴としては「見当識障害」「記憶の再認不能」「物事の順番や組み合わせが分からなくなる」などがあります。「見当識」というのは場所や時間を認識する能力のことです。なので認知症の人は季節外れの服装をしたりします。「記憶の再認不能」というのは何かきっかけがあってもそのことを思い出せないということです。例えば「自分がお肉を買っておいたのを忘れて外食して帰ってきてしまった」なんてことは誰でもありますよね?でも冷蔵庫を見て肉があれば思い出せるじゃないですか?「しまった~」ってなりますよね?でも認知症の人は「誰だ?この肉を買ったのは?」ってなるんです。あるいは、上司に「Aさんに来週までに報告書を書いて提出するように言っておいて」と言われたのに忘れてしまっていて、あとで上司に「言っといてって言ったよね?」と怒られたら「申し訳ありません。忘れてました」ってなりますよね?でも認知症の人は「そんなこと言われてません!」となるわけです。「肉」とか「上司の指摘」のような何か記憶を思い出すきっかけがあれば、普通は記憶を「再認」できるはずなのですが、それができない、思い出せないということです。「物事の順番や組み合わせが分からなくなる」というのは例えば「料理」ができなくなります。料理ってどの食材をどういった形に切ってどの時点で炒めてどの時点でどういう組み合わせで調味料をいれて、次の料理の準備はどの時点で始めて、洗い物はどの時点でするかなど組み合わせや順番が大事ですよね?認知症になると「食材を切る」「皿を洗う」など一つ一つの作業はできてもその順番や組み合わせが分からなくなってしまうんです。

 

レビー小体型認知症の原因と症状 

 一昔前まではこのアルツハイマーと、脳卒中などが原因の脳神経細胞死によって起きる脳血管性認知症だけがよく知られていたと思いますが、最近はレビー小体型認知症もよく知られるようになってきました。この病気では脳の神経細胞にレビー小体という特殊な構造体が出来ます。特徴的な症状としては、「ボーっとする」、「そこにない人やものが見える(幻視)」、「体がこわばったり、ふるえたり、うごかなくなったり、前に突進したりする(パーキンソニズム)」などがあります。

 

周辺症状(BPSD)

 その他に認知症の症状に関するもので押さえておかなければならない言葉に「周辺症状(BPSD)」があります。俗にいう「物忘れ」が「中核症状」と呼ばれていて、それと区別して使われる言葉です。つまり「興奮」や「攻撃性」や「徘徊」や「不潔行為」などの「物忘れ」以外の症状のことをいいます。この周辺症状(BPSD)はどの認知症でも起きることがありますが、かなり個人差があってほとんど起きない人もいれば、かなりひどい人もいます。あとは家族など介護者の対応によっても影響を受けるようです。

 

認知症と誤診されることが多いケース

 

 「物忘れが急に増えた」とか「意味不明な発言をするようになった」から認知症じゃないかと周りの人が心配して受診してみたものの、実は違う原因だったなんてこともよくあります。例えば、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症などの病気や睡眠導入剤などの薬の服用です(鼻炎や皮膚炎に使用される抗アレルギー剤、過活動膀胱に使用される抗コリン剤なども危険だと言われています)。これらの疾患や薬によっても、認知機能の低下がみられることがありますので、認知機能が低下しても認知症という結論に飛びつく前にしっかりとした検査と診断が必要です。鑑別診断のためには、次に紹介する脳の画像診断やホルモン、ビタミンの血中濃度を測定する血液検査などが行われます。

 

認知症の診断

 

 認知症の診断では認知機能検査や脳の画像診断が行われます。認知機能検査は昔学校などでやった知能テストみたいなイメージですね。代表的なものだと長谷川式MMSEなどがあります。見せた物や伝えた単語を記憶してもらって数分後に質問したり、簡単な計算をしたり、曜日を聞いたりといった簡単な内容です。これらを点数化して評価するわけです。画像診断ではMRICTをつかって、脳が萎縮していないか、出血や梗塞がないかなどを見ます。最近ではアミロイドPETといってアルツハイマーの原因に関係していると考えられているβアミロイドがどの程度脳に蓄積しているかを調べられる検査もあります。これはまだ、かなり限られた医療機関にしかありませんが・・。

 

認知症の薬物治療

 

 認知症の中核症状(物忘れ)の治療に使われる薬は大きくわけて2種類です。コリンエステラーゼ阻害剤という種類と、NMDA受容体拮抗薬という種類です。コリンエステラーゼ阻害剤にはドネペジル(商品名:アリセプトなど)、ガランタミン(商品名:レミニール)、リバスチグミン(商品名:イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)があります。これらは簡単にいうと、脳の中で情報のやり取りに使われているアセチルコリンという情報伝達物質を増やしてあげることで認知機能を良くしてあげようという仕組みです。NMDA受容体拮抗薬はメマンチン(商品名:メマリー)です。これは、グルタミン酸という神経伝達物質をブロックすることで脳の神経細胞が障害されたり、記憶・学習が障害されるのを防ぐ仕組みです。ちなみに、ほとんどの薬はアルツハイマー型でしか医療保険が使えませんが、ドネペジルはレビー小体型でも医療保険が使えます。

 

認知症の薬を服用する上での注意点

 

 皆さんに明確にお伝えしておきたいのは、残念ながらこれらは「知機能が低下するのを遅らせる薬」です。つまりは、認知機能がかなり低くなってから服用した場合に、認知症になる前の状態に戻してくれるかというとそうではないんです。ですから、認知症だ判ったらなるべく早く服用することが重要なんです。あとは、「服用したけど変化がない」といって薬を止めてしまう人が非常に多いのですが、考えてみてください。「認知機能が低下するのを遅らせる薬」で認知機能が変化していないってことは効いているってことです。服用は続けるべきです。また、コリンエステラーゼ阻害剤の一種であるドネペジルについていうと効果が出るのに12週間かかるというデータもあるようです。じっくり使いましょう。さらに恐ろしいデータとしては、ドネペジルを途中で中止して数週間たって薬が身体からなくなると、そこから急激に認知機能が低下して元々薬を服用していなかったらこのくらいになっているであろうレベルにまで低下してしまうそうです。続けることが重要な薬なんですね。

 

認知症の薬でよく起きる副作用と対応方法

 

 コリンエステラーゼ阻害剤のうち内服薬(飲み薬)で頻度が高い副作用は吐き気と食欲不振です。この副作用は服用開始や増量のタイミングで起こりやすいのですが、2週間程度で納まることが多いので耐えられるようなら耐えてほしいところです。貼付剤(パッチ)でも起こりますが、頻度は内服より低いです。パッチタイプはかぶれが非常に起きやすいですね。対応としてはパッチを貼る位置を毎日変えるとか、保湿するとか、はがすときにゆっくりはがすとか、お風呂でごしごし洗わないとかですね。ただし、保湿する場合は貼る直前に貼る予定の場所に保湿剤を塗るとパッチがはがれやすくなるので、今貼っている場所の周辺や、明日貼る予定の場所を保湿するのがお勧めです。NMDA受容体拮抗薬のメマンチンは、めまいや眠気がでやすいです。特に高齢者は転倒、その結果骨折などが起きてしまうリスクが高いので、特に服用開始初期は介護者が十分注意する必要があります。この副作用はすぐに慣れて起きなくなる人とそうでない人がいるのでケースバイケースで対応が違ってきます。

 

認知症の薬のこれから

 

 認知症の薬は今臨床試験しているものがいくつかあります。アルツハイマー型の原因と考えられているβアミロイドが身体の中で作られないようにしたり、出来てしまったβアミロイドを抗体でくっつけて取り除いたりすることが考えられています。もう数年したら、アルツハイマー型に関しては脳の神経細胞が死に、脳が萎縮していくのを防ぐことができるようになるかもしれませんね。そんな未来が待ち遠しいです。

 

maccyan2.hatenablog.com